有機物のみからなる磁性材料の開発は、全く新しい有機機能材料の出現につながる基礎的かつ重要な研究課題である。本研究では、研究代表者が見出した"スピン整列を促す超分子シントン"をベースにラジカル分子に化学修飾を行い、その効果を精密な磁気物性評価から検証し、高性能な純有機ナノ磁性材料を構築する。 平成23年度においては、環外水素を有さないチアジアゾール縮環した誘導体ならびにベンゾ環を複数拡張した誘導体を新規に合成した。合成した有機ラジカル結晶について各種分光学的測定および電気化学的測定を実施した。固体状態における磁気特性は、直流および交流SQUID磁束計を用いて評価した。直流モル磁化率の温度依存性からラジカル分子間の相互作用を詳細に議論した。また、X線構造解析より得られる結晶座標を用いてDFT計算を実施した。実験データとモデル式を非線形最小二乗法で解析し、磁気カップリングパラメータを算出した。チアジアゾール縮環した誘導体は、母骨格とは異なるカラム配列で結晶化した。さらにベンゾ環拡張した誘導体では、新たな磁気軌道の接近様式が見出された。これは、複素環部位の電子的な効果であると考察した。 以上を総合して、水素結合部位としてインドール型ニトロニルニトロキシド一連の新規誘導体を合成し、水素結合様式と集積体の磁気特性を定量的に議論することで、高次元スピンネットワーク構築に適したラジカルの分子設計に必要な知見を明らかにした。
|