本研究の目的は、固液界面に固定化したタンパク質の電気化学的活性を簡便に計測する手法を開発するとともに、界面に固定化したタンパク質を利用した新規なセンサー等のデバイス開発の指針を得ることである。そのためスラブ光導波路(SOWG)分光法を用いて紫外-可視域の時間分解吸収スペクトルのその場測定を行い、ヘモグロビン等のタンパク質のITO電極上に対する吸着過程を観察し、ITO電極とタンパク質間の電子移動反応を検討する。 平成20年度に、ITO-SOWG分光法の高感度化や最適化を達成し、単分子層の1/10の表面被覆率でも350~800nmの波長範囲で1ミリ秒以下程度の時間分解能の吸収スペクトル測定を行うことが可能な時間分解ITO-SOWG分光装置を開発した。また、タンパク質やアミノ酸の吸着特性を、基板の表面電荷により制御するために、電気化学セルを形成し、表面増強ラマン・近接場ラマン分光により検討した。その結果、ローダミン色素や有機単分子膜のほか各種アミノ酸を、ITO系基板に強く吸着させ、その電位依存性を超高感度・超解像ラマンスペクトル測定により明らかにした。 平成21年度は実際にITO-SOWG上にチトクロームcを吸着させITO電極にパルスポテンシャルステップを印加し、酸化体と還元体を交互に生成させながら時間分解ITO-SOWG分光装置で吸収スペクトルの連続測定を行った。1ミリ秒以下の時間分解ではノイズに対する信号強度が小さくスペクトル変化が明瞭ではないため、2ミリ秒ごとに吸収スペクトル測定を行った。その結果、チトクロームcとITO電極間の電子移動反応は10ミリ秒程度で終了しており、速度定数はk=100[s^<-1>]と概算で得られた。これは従来から言われている、他の測定法で得られた結果と非常によく一致した。 平成22年度は速度定数が大きい反応系を開拓するため、条件を変化させて同様の実験を行う。
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