平成20、21年度と、ITO-SOWG時間分解吸収分光法を開発した。平成22年度はITO電極上に吸着固定化したチトクロームcを用い、ITO電極に対してチトクロームcの酸化体と還元対を生成する電位間でパルスポテンシャルステップを印加し、同時にSOWG分光法でチトクロームcの吸収スペクトルの変化を20msecの時間分解能でその場観察した。その際、共存するリン酸緩衝液の濃度を減少させていくと、初めは殆ど変化がないが、500倍程度に希釈しリン酸が20μM程度の濃度にまで減少すると電子移動に要する時間が500msec程度まで急に増加した。溶液の電気伝導度はイオン濃度に比例すると考えられるので、溶液物性は電極上に吸着したタンパク質の電子移動活性にはあまり影響しない可能性が示唆された。 また、共存する溶媒を純水に変えてもITO電極とその上に吸着しているチトクロームcの間で電子移動反応が観察された。電子移動反応の自邸数は4~5秒程度であった。サイクリックボルタモグラム(CV)等の電気化学的手法では溶液の電気伝導度が一定以上ないと測定出来ないため、検討が不可能である。SOWG時間分解吸収分光法を用いたため、このような検討に成功した。 チトクロームcの吸収バンドのピーク位置変化を観察した。510~550nm付近に観察されるQバンドの酸化還元反応に伴う変化は掃引する電位範囲にほとんど影響を受けなかった。一方、410nm付近に観察されるソーレ帯は掃引する電位範囲によってピーク波長の変化する範囲が異なった。CVの結果からは電気化学的に完全に還元されていると考えられる電位にITO電極を設定しても、還元体のピーク波長である416nmまでシフトしなかった。
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