本研究では、酵素とポリリジンなどカチオン性ポリマーの複合体を分子間架橋することによりマイクロチャネル表面に酵素を固定化する我々独自の技術を応用し、様々なポリエチレングリコール(PEG)化ポリマーと酵素の複合体を形成させ架橋することにより、酵素の活性を損なわずに安定性を高める酵素固定化技術の開発を行うとともに、酵素反応マイクロ化学プロセスの構築に応用する。初年度は、様々なポリエチレングリコール(PEG)化ポリリジンを設計・合成し、これを酵素固定化反応に応用した。PEG化ポリリジンのみでは、立体障害のためか酵素との分子間架橋反応が進行しにくかったが、短鎖のポリリジンを添加することにより、架橋することに成功した。キモトリプシンをモデルとして、架橋反応生成物の様々な条件に対する酵素活性を測定したところ、尿素などの変性剤に対する安定性はポリリジンをPEG化することにより徐々に低下することが解った。一方、DMSO等有機溶媒に対する安定性はポリリジンのPEG化により向上することが判明した。このことは尿素などによる水素結合切断を介する変性にはPEG化は逆効果だが、有機溶媒による疎水-親水性バランスの変化に対しては、PEG化はむしろ酵素分子を安定させる事が判明した。PEG化ポリリジンと短鎖のポリリジンの比率及び全体のポリリジン量を最適化することにより、PEG化していないものに比べて最大15%程度有機溶媒中での活性が向上した。次にこのPEG化ポリリジンを用いた分子聞架橋方法を酵素固定化マイクロリアクター作製に用いたところ、PEG化していないポリリジンを用いたとき同様にチャネル表面に膜状の構造体を形成して酵素を固定化することに成功した。
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