研究概要 |
巨大磁気抵抗効果(GMR)の発見以来,電子のスピン依存現象に着目したスピントロニクスと呼ばれる新しい学問分野が形成され,今後更なる発展が期待されている.強磁性層間の磁気層間結合は,デバイスの基本原理となることから,一つの大きなトピックである.現在,強磁性(F)結合,反強磁性(AF)結合のスイッチングは磁場のみでなされており,まだ用途が限定されている.本研究では,温度と光に敏感な半導体を非磁性層に用いた強磁性金属/半導体超格子を作製して,強磁性層層間結合に及ぼす温度および光照射の効果を詳細に検討することを目的とした. 本研究は,今までの知見と実験技術を基盤として行われている.所望する強磁性(F)結合膜,反強磁性(AF)結合膜は,FeSi_2半導体層の膜厚をコントロールして堆積することで,再現性よく実現可能である.堆積速度を小さくして膜成長を行えばFe_3Si層はSi(111)基板上にエピタキシャル成長した後,FeSi_2層を跨いでエピタキシャル成長を継続する.このエピタキシャル成長の継続がFおよびAFの強磁性層層間結合を発現させるために必須条件であることがわかっている.磁化曲線から強いAF層間結合が誘起できていること,およびMR曲線から層間結合のAFからFへの変化の伴う抵抗変化を確認している. 今までのノウハウを元にAFおよびF結合人工格子膜を作製して,その人工格子膜に波長1.3μmのレーザ光照射を行い,磁気層間結合の変化を電気抵抗の変化により調べた.四端子法を用いた電気抵抗測定に際し,定電流を流すことによる磁気層間結合の変化が予想されたので光照射のみならず注入する電流値も調べるパラメータとした.AF結合膜がR-I測定でヒステリシスを示すのに対して,F結合膜ではヒステリシスは観測されなかった.また光照射に対する明白な抵抗値変化は見られなかったのに対して,AF結合膜は明白な変化を示した.電流注入および光照射に伴う反強磁性結合の状態変化が示唆された.現在詳細に調べている.
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