固体電気化学反応を用いて電極間での金属原子架橋の形成と消滅を制御して動作する原子スイッチの多機能化を目指した研究を行った。平成21年度は特に、不揮発性・揮発性動作を選択して行うためのメカニズム解明に注力した。具体的には、固体電解質電極として硫化銀を、対向電極として白金を用いた原子スイッチ構造を走査トンネル顕微鏡を用いて構成し、そのスイッチング時間の温度依存性とスイッチング電圧依存性の評価を行った。この測定において白金探針の位置制御を行うため、SPM制御系を整備した。 その結果、スイッチング電圧依存性では、0.2Vを境に、低電圧領域と高電圧領域とで 電圧依存性に明瞭な差異が認められた。さらに、温度依存性測定により、低電圧領域における活性化エネルギーが約0.5eVであるのに対して、高電圧領域では約1eVとなることが分かった。モデル解析の結果、低電圧領域では、硫化銀表面における電気化学反応(銀イオン+電子→銀原子)が律速過程となっているのに対して、高電圧領域では、電気化学反応速度が速くなるために、反応場(硫化銀表面)への銀イオンの供給が追いつかず、硫化銀内部における銀イオンの拡散現象も律速過程となっていることが判明した。これらの結果から、揮発性・不揮発性制御のためには、昨年度の研究で明らかにした固体電解質電極サイズの制御に加えて、固体電解質表面における電気化学反応速度と同結晶内部におけるイオン拡散速度の最適化を行うことが有効であることが判明した。最終年度となる平成22年度は、上記結果を3端子構造にも適用し、揮発性・不揮発性制御が可能な3端子構造の開発に寄与する予定である。
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