本研究は現行の昇降機・遊戯機械の定期検査制度における緊急課題である「構造健全性判断基準の定量化」に関し、運用時の材料劣化の程度、部分破損の許容量、摺動部の摩耗や締結部の弛緩の程度について、固体伝達波や漏洩磁束より特徴抽出して得られる新たな応答物理量を定義して、構造安全指標となる判断基準値について分析・調査し、検査資格者の定期点検に際したより的確な業務方法を提示することを研究課題とした。平成22年度は、現行の定期検査の業務基準、日本工業規格の検査標準等に対して、検査基準指標の定量化をより詳細に検討した。具体的には、各所で設置運用されているエレベーターの扉開昇降防止安全装置の性能や停電時安全装置の着床精度などを測定し、駅舎などの公共施設やショッピングセンターなどで運用される昇降機の保守保全項目の判定基準などを再検討した。この結果、設置場所や運用履歴による駆動制動装置への影響度の違いが明らかとなり、短期間での定期検査を義務づけるなどの事故防止対策や、不全進行の度合を直接視認、特定できない要因に関する検査方法についても改善案を提案した。また、「常時の予見保全を支援するシステム」の開発に関しては、エレベーターワイヤーロープの素線切れの予見保全に資するため、素線切れ本数による漏洩磁束強度の変化を測定し、「健全状態」と「素線切れ進行状態」の自動識別の可能性を検討した。また、信号処理による損傷検知や目視検査の可能性を検討するために、離散ウェーブレット変換による信号処理と機械学習の一手法であるニューラルネットワークに基づいた構造健全性識別アルゴリズムを考案し、その有用性を検証した。
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