本年度の主要な研究成果は以下のとおりである。 1)内水氾濫実験装置を用いて、非定常の内水氾濫実験を行った。地上への降雨強度および下水道管渠上流端からの流入流量を固定して、下水道管渠下流端の水位を上下に変動させる実験を行った。その結果、下水道管渠のピエゾ水頭が地表面の標高を越えた時点で下水道管渠から地上への雨水の噴出しが始まった。ただし、地上の氾濫水位は、ただちに下水道管渠のピエゾ水頭と同じ高さに達するのではなく、ピエゾ水頭の変動よりもかなりゆっくりとした速度で変動することがわかった。 2)数値解析モデルによって、上記1)の実験の再現計算を試みた。その結果、解析モデルによって下水道管渠のピエゾ水頭の変動は適切に再現できていることがわかった。ただし、地上の氾濫水と下水道管渠内の雨水のやりとりを従来の段落ち式と越流公式によるモデルで解析したところ、地上の氾濫水位が管渠のピエゾ水頭にすばやく連動して上下する結果となり、実験で見られた現象とは異なっていた。実験結果と解析結果の比較から、従来の段落ち式と越流公式によるモデルでは、下水道管渠から地上への噴出し流量、ならびに地上から下水道管渠への排水流量を過剰に評価していることがわかった。そこで、これら両公式で用いる流量係数を試行錯誤的に調整してみたところ、従来モデルで用いていた流量係数の値よりも約1/10~1/100程度まで小さくしなければ実験結果に近い結果が得られないことがわかった。 以上のことから、内水氾濫の発生の有無および浸水規模を規定する、地上と下水道管渠の雨水のやり取りを扱うモデルとして、従来の段落ち式と越流公式では両者の間の流量を過剰に評価してしまうことが明らかとなり、当面の措置として両公式中の流量係数の改正値を提案したが、今後は新たな定式化も視野に入れた更なる検討が必要と考えられる。
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