バイセルは長鎖リン脂質と短鎖リン脂質からなるディスク状の会合体で、長鎖リン脂質が形成する平面部分は二重膜構造を有していることから、最小の脂質二重膜モデルと考えられている。本研究では、バイセルを用いて生体膜における分子間相互作用解析のたあの方法論の確立を目的とする。またその方法論をアンフィジノール等の膜作用分子、さらに脂質ラフトへと応用し、脂質膜中での分子認識機構および会合構造の解明を目指す。 まず本年度はアンフィジノール3(AM3)に対してバイセル中での構造解析を行った。AM3は渦鞭毛藻由来のポリエンポリオール化合物で、強力な抗カビ活性および溶血性を有しているが、その効果は膜へのイオン透過性ポア形成による。バイセル中でのAM3は、ポリオール部分を膜表面に広げ、ポリェン部分を膜内部に貫入させた構造であることが明らかとなった。このことは、AM3が脂質膜に作用して膜の表面積が大きくなり、膜が正の曲率を持つことを示唆しており、その結果ポアが形成するものと推測される。この結果はOrganic Letters誌に掲載された(Houdai 他)。また、今年度購入した動的光散乱装置を用いてバイセルの形状や大きさについての検討を開始した。特にバイセル中に取り込ませた薬剤がバイセルの形状に与える影響を現在調べている。 さらにバイセルを用いて脂質ラフトにおける分子相互作用解析も開始した。脂質ラフトはスフィンゴミエリン(SM)およびコレステロールを主成分とする細胞膜ドメインであり、周囲の細胞膜とは異なる相状態を有している。本年度は長鎖リン脂質の代わりにSMを用いてバイセルを形成させ、スピン結合定数やNOEの測定を行い、SMの配座解析を行った。現在はこれにコレステロールを含有させ、脂質ラフトをバイセルで再現することを検討中である。
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