新しいがん治療法の一つである光線力学治療法における光線力学治療薬として、昨年度までに光捕集部位(光アンテナ)として蛍光色素と、活性部位として[60]フラーレン(C_<60>)および[70]フラーレン(C_<70>)をリポソームに含有することにより、光線力学治療法で用いられる波長領域(600~700nm)の光照射で高い光線力学活性を持つことが示された。これにより、C_<60>およびC_<70>が長波長領域に吸収をあまり持たないため、この領域での光照射による光活性が低いという問題を解決できた。本年度はさらに長波長での光活性の向上を目指し、より長波長領域で光を吸収可能な蛍光色素に変更して検討を行った。 本年度は光捕集部位としてカルボシアニン系蛍光色素であるDiDに替わり、DiRを用いた。DiDの最大吸収波長が約650nmであるのに対し、DiRでは約750nmである。そこで、DiRとC70をリポソーム内に共存させた2元系を用いてがん細胞であるHeLa細胞に対する光毒性を評価した。このとき、励起波長としては700nm以上の波長の光を照射した。結果は、それほど光毒性が高くないことがわかった。この理由として、(i)今回用いた光源の700nm以上の光、特に750nm付近の光の強度が弱いためDiRを十分に光励起できなかった、(ii)DiRのエネルギーレベルがC_<70>に合わないためうまくエネルギー移動ができなかった、という2つの原因が考えられた。今後、光源の変更により(i)の問題を、蛍光色素の変更により(ii)の問題を解決できるようにする。
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