研究課題
新しいがん治療法の一つである光線力学治療法における光線力学治療薬として、昨年度までに光捕集部位(光アンテナ)として蛍光色素と、活性部位としてC_<60>およびC_<70>をリポソーム膜内に共存させることにより、光線力学治療法で用いられる波長領域(600~700nm)の光照射で高い光線力学活性を持つことが示された。昨年度は、光捕集部位をカルボシアニン系蛍光色素であるDiDから、DiRに変えたが、性能向上には至らなかった。本年度はリポソームを形成する脂質分子の変更、ならびに光捕集部位に水溶性部位であるスルホン酸基を持つDiD-DSを用いることで光線力学活性の向上を目指した。まず、膜相転移温度の低い脂質分子であるDMPCを用いた場合、より高いDPPCに比べ、HeLa細胞を用いた光殺傷能、つまり光線力学活性が高いことが示された。この結果は全ての光捕集部位(DiDまたはDiD-Ds)と活性部位(C_<60>またはC_<70>)の組み合わせについて言えた。この理由は、室温において膜流動性の高いDMPCのほうが、光捕集部位と活性部位が近接しやすく、よりエネルギー移動が起こりやすいものと考えられた。一方、光捕集部位をDiD-DSにするとDiDの時に比べ、光線力学活性の向上が見られた。この理由はDiD-DSの水溶性部位により、色素部位がより膜表面近傍に存在するため、活性部位がπ-π相互作用によってより膜表面に存在することが考えられ、その結果バルク溶媒中の溶存酸素との接触確率が増大したものと考えられた。今後これらの知見を元にさらなる活性の向上を図る。
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