研究概要 |
海洋天然物ラメラリンNには、5環性複素環骨格と1位芳香環との間の単結合周りの回転障害に由来する軸不斉が存在する。抗がん剤分子標的であるCDK2とラメラリンNとのドッキングシミュレーションの解析から、ラメラリンNの軸不斉に基づくエナンチオマーのうち、R体の方がS体よりもCDK2をより強く阻害することが予想された。 昨年度は、HPLCにより、軸周りの回転を完全に抑えた16-メチルラメラリンNについて両エナンチオマーの分割に成功した。今年度は、まずX-線結晶構造解析により分割した両エナンチオマーの絶対配置を決定した。また、それぞれのエナンチオマーについて数種のキナーゼ(CDK1,CDK2,CDK5,CK1,CLK3,DYRK1A,GSK3,PIM-1)に対する活性評価を行った。その結果、予想通り両異性体問で活性に大きな違いが認められた。しかしながら、高活性な異性体は、R体(ラメラリンNのS体に相当)であり、当初の予想とは反する結果となった。そのため、シミュレーションにより原因の究明を行った。その結果、低活性めS体においては、16位メチル基とCDK2のN-ローブ側のβ-シートとの立体反発があるが、高活性のR体では、そのような反発はなく、むしろメチル基がC-ローブ側にある疎水性ポケットにはまり込むような形で安定化していた。現在の所、このような16-位メチル基とキナーゼとの相互作用の違いが、活性に影響をおよぼしたものと考えている。R体とS体の細胞増殖抑制活性(抗がん活性)は、現在評価中である。 一方、ラメラリンの5環性骨格1位に様々な置換基を導入した1位置換ラメラリン誘導体についてキナーゼ阻害活性評価を行った。その結果、1位のフォルミル基を持つラメラリン誘導体が、DYRK1Aに対して選択的な阻害活性を示した。DYRK1Aはアルツハイマー病等の神経変成疾患の原因となるキナーゼであり、DYRK1Aに対して選択的な阻害活性を持つラメラリン誘導体は、これらの疾患の治療薬開発のためのシード化合物となり得るものと考えられる。
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