日本を始めとする先進国における化学産業はバルク製品の製造から、より付加価値の高いファインケミカル製品の製造に移行している。これらのファインケミカル製品の製造の触媒として基質特異性の高い酵素を利用することは、環境調和型の化学プロセスを構築する上で大変有用である。しかしながら、ファインケミカル製品の多くは難水溶性の化合物であり、高効率に製造するために用いられる有機溶媒存在下では酵素は容易に変性し、その触媒機能を喪失する。本研究では、酵素の有機溶媒耐性の要因を検討し、有機溶媒耐性生体触媒の創製に必要な知見を得ると共に、それらの知見を基にして、有機溶媒耐性生体触媒を創製する。 本年度は、まず、有機溶媒耐性微生物Pseudomonas aeruginosa LST-03株由来のLST-03リパーゼ遺伝子にランダム変異を誘発し、有機溶媒耐性の異なるリパーゼの取得を試みた。その結果、有機溶媒耐性が向上した数種の変異リパーゼの取得に成功した。また、新たな有機溶媒耐性酵素の創製を目指し、補酵素を必要としない酸化還元酵素遺伝子の取得を試みた。具体的には、高価な補酵素等を必要とせずに、反応性の高いハロゲン化中間体を合成する酸化還元酵素の1つであるStreptomyces aureofaciens ATCC 10762株由来の非金属型プロモペルオキシダーゼを選択し、当該遺伝子をクローニングや異種宿主での発現系を構築した。
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