日本を始めとする先進国における化学産業はバルク製品の製造から、より付加価値の高いファインケミカル製品の製造に移行している。これらのファインケミカル製品の製造の触媒として基質特異性の高い酵素を利用することは、環境調和型の化学プロセスを構築する上で大変有用である。しかしながら、ファインケミカル製品の多くは難水溶性の化合物であり、高効率に製造するために用いられる有機溶媒存在下では酵素は容易に変性し、その触媒機能を喪失する。本研究では、酵素の有機溶媒耐性の要因を検討し、有機溶媒耐性生体触媒の創製に必要な知見を得ると共に、それらの知見を基にして、有機溶媒耐性生体触媒を創製する。 特に、リパーゼは難水溶性の脂質のエステル結合を加水分解する酵素であり、水分濃度が低い場合には、その逆反応を触媒することが可能である。そのため、リパーゼの反応は有機溶媒存在下で用いられることが多い。一般の酵素は有機溶媒存在下で容易に変性し、その触媒機能を喪失するが、有機溶媒耐性リパーゼを産生する有機溶媒耐性微生物が取得されている。しかしながら、有機溶媒耐性リパーゼの生産性はあまり高く、リパーゼの活性発現には分子シャペロンが必要である。そこで、高効率な多量取得を目的とし、異種宿主とした高発現系の構築を試みた。強力な大腸菌プロモーターの下流に有機溶媒耐性リパーゼ遺伝子を配するとともに、高発現が達成されるよう遺伝子を改変した。発現したタンパク質の局在を調べると共に、高効率な可溶化と高純度なタンパク質の取得法を検討した。さらに、分子シャペロンを用いた有機溶媒耐性リパーゼの高効率活性化条件について検討した。
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