研究概要 |
本年度は、研究実施計画にあげている三つの領域について以下のように行った。 領域(1)では、新古典派経済学批判としてのフェミニスト経済学の理論構築として主要な課題をなす、グローバル経済へのジェンダー分析として、金融・情報領域のグローバル化と生産領域・実体経済との関連に関する実証分析と理論構築を進めた。そのために6月にMassimo de Angelis氏(East London Univ.)との共同研究と国際会議を開催した。とりわけ、アメリカ合衆国(カリフォルニア)およびイギリス(ロンドン)における住宅価格の騰貴をはじめとする金融バブルと製造業衰退に関してのデータ・実証の取りまとめを行った。 領域(2)では、再生産領域のグローバル化の課題であるケア労働の国際移転に関し、日本においてインドネシア、フィリピンからの介護・看護労働者の実態に関する予備的な国内聞き取り調査を行った。また、従来から継続している外国人ケア労働者受け入れ施設の聞き取りを並行して実施した。 領域(3)では、1990年代以降のフェミニスト経済学の理論・実証研究の成果の収集と整理のためのデータ・ベースを構築し、フェミニスト経済学の重要単語、テーマなどの検索システムを作成している。また、日本フェミニスト経済学会のHP構築を行い、データ・ベース利用の準備をしている。 以上の三つの領域における研究の進行過程において、2008年秋から世界的な金融危機がおこり、フェミニスト経済学が主要な課題としてきた新自由主義的なグローバル化の進展と限界、その社会的影響の深さがあらためて再認された。特に、金融危機以降の新しい国際的な課題として、UN,UNDPなどではアジアにおけるマクロ経済へのジェンダー分析(本研究領域(2)の3群のテーマ)が注目されており、新古典派批判の経済学の一分野として、ケインズ経済学、制度学派などと並び、フェミニスト経済学において独自な概念である「非市場経済における基本財の供給・分配システム」の解明は、その重要性に注目が集められている。
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