本研究の目的は、第一には、90年代初めに国際的に成立した、フェミニスト経済学についての包括的な研究をおこない、経済学の新たな一分野としてのフェミニスト経済学の特質を明らかにすることである。第二には、第一をふまえ、従来の経済学においては、しばしば問題の所在そのものが不可視にされ、それゆえに経済問題として扱われてこなかった一連の問題群に対して接近し、現在の世界経済において最も先端的な資本とジェンダー配置の状況を見出すことにある。 2008年のグローバル金融危機以降に、世界経済は大きくパクス・アメリカーナからアジア・とりわけ中国などの新興経済国へのシフトを高めており、2009年度の国際フェミニスト経済学会でも中心的課題であった。本研究の第一課題である理論研究では、新古典派経済学批判としてのフェミニスト経済学が、ケインズ学派、ポスト・ケインズ学派、制度学派と共に、新古典派経済理論の鍵概念である市場均衡理論に対し、その特質を「ケア・エコノミー」概念の創出として提示し、「基本的経済財の調達と循環」視点による市場経済のみに偏重しない非市場経済領域の重要性を経済学の理論枠組みに包含する新たな理論として発展させつつあることが確認できた。また、ケア労働論と近接する接客サービス産業における労働理論研究も合わせて行った。さらに、グローバル金融危機以降の現状分析として、アメリカ合衆国の金融機関の聞き取り、とりわけ個人ローン状況の視察・分析を行った。加えて、<生産領域のグローバル化>における新国際分業体制の最新展開としてのアジアにおけるジェンダー配置の複線化の進行を、上海日系縫製産業の現地生産工場聞き取り調査の実施により行った。 以上、フェミニスト経済学の理論的特質と現状課題への接近方法を基盤として、グローバル金融危機以降、アジア新興国経済における<生産領域のグローバル化>の最先端が、既に中国から中国-周辺諸国との資本連携において行われつつある点を確認し、現在の世界不況においても一貫して高収益企業となっている自社デザイン発注型製造方式のジェンダー配置がどのような形態および進展過程を示しているかを分析した。
|