本研究は、南インドに伝承が現存するジャイミニーヤ派サーマ・ヴェーダとヴァードゥーラ派ヤジュル・ヴェーダの主要文献を、収集諸写本を中心資料として校訂し研究することを目的としている。研究代表者のほか三名の連携研究者(井狩彌介、梶原三恵子、手嶋英貴)と、複数の研究協力者(海外共同研究者)が研究に参加している。平成22年度の研究実績は以下のとおりである。ジャイミニーヤ派文献に関しては、サンヒターを藤井とアスコ・パルポラ(ヘルシンキ大学)が共同で、ブラーフマナおよびウパニシャッドを藤井が、シュラウタとグリヒヤの両スートラをパルポラが、それぞれ担当して研究を進めた。ヴァードゥーラ派文献に関しては、井狩が校訂しつつあるシュラウタ・スートラを井狩、藤井、梶原、手嶋が共同で、グリヒヤ・スートラを梶原が、それぞれ担当して研究を進めた。藤井は、ジャイミニーヤ派のブラーフマナからウパニシャッドへの儀礼(歌詠)と思想の展開について論文を執筆した。共同で行なっているヴァードゥーラ・シュラウタ・スートラ第10章(ラージャスーヤ)の校訂と解読を終了した。そのほか、藤井、梶原、手嶋が昨年度に引き続き、平成23年2月に南インドのケーララ州のジャイミニーヤ派とヴァードゥーラ派の伝承地に入り、伝承家系と写本の継続調査を行なった。今回は、ナンブーディリと称されるケーララ州土着バラモンの各家系が所属するグラーマ(祖先村)と、各グラーマに一つないし二つ存在するヴァイディカ(ヴェーダ学匠家)について調査を行ない、口承や写本を含むヴェーダ伝承とナンブーディリの社会組織との関係について新たな知見を得た。
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