1998年度以降に政府によって推進された行政構造改革のうち、とくに市町村合併、指定管理者制度、および公益法人改革に注目し、それらの制度変更が戦後日本の地方自治体で行われてきた芸術文化政策にどのような影響が与えられたかについて、調査および研究を行った。全体の状況を把握するために、2008年には「自治体文化政策と行政構造改革」について、また2010年には全国の自治体44都道府県、1592市町村(被災地に含まれる岩手県、宮城県、福島県、そして東京23区は除く)にむけて、公立文化会館、博物館法上の公立博物館施設、図書館法上の図書館施設を対象に統廃合、新設施設、公益法人への移行を調査した。 前者においては、自治体文化政策の重要性や優先度は、政策全般の中において、相対的に低くなっていることが明らかになった。自治体文化政策は、ハード整備からソフト整備が重視される局面に入ったにも関わらず、市町村合併、公共部門の民営化、独立行政法人化、行政評価の導入、指定管理者制度の対応により、行政構造改革の「負の側面」が大きく影響している実態が明らかになった。ただし、自治体の多くは、行政構造改革の影響を受けながらも、事業数の維持に努めている状況が明らかになった。芸術文化の社会的便益が重視されるようになってきている現状があるものの、広域自治体や大都市において経済的な便益を求める方向が重視する傾向が高まっていることも明らかになった。 また、後者の調査においては、行政構造改革により、公立の文化施設の統廃合が進むのではないかという予測をしていたが、実際には、統廃合の理由の多くは「施設の老朽化」が多数を占めていることがわかり、行政構造改革の負の側面で市民サービスの低下を避けようとする自治体の努力がみてとれる結果になった。 なお、2012年12月15日に、研究協力者とともに、研究成果を発表するシンポジウムを開催した。
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