本研究の目的は、東京音楽学校における音楽の専門教育を事例として、日本における近代音楽文化の成立と変遷の様相を解明することである。この目的のため、東京音楽学校における教育課程や教授・演奏活動の実態、学生の実像などを多角的に検証し、近代日本における西洋音楽の受容が、官主導の下でどのように行われたかに光をあてた。この際、特に周辺諸国からの留学生の動向にも注目し、東アジアの近代音楽文化形成に日本が果たした役割についても考察を加えた。今年度は、特に次の各項目について研究を進めた。 1.明治期の東京音楽学校における楽譜の受入状況を調査、データベース化を進め、データの整備が完了した明治30年度までのデータについてWeb上で一般公開した。 2.楽譜の受入状況と、教育体制や演奏会の実施状況との相互関係について検討を加え、東京音楽学校における音楽専門教育が発展して行く様相を具体的に考察した。 3.外国語の声楽曲に日本語の新たな歌詞を割り振って歌う「作歌」の実践について、関係する歴史的記録をまとめた目録・データベースを作成、さらに原曲との関係や演奏のコンテクストを具体的に検討し、この実践が当時の音楽専門教育や社会において有していた意義について考察を行った。 4.東京音楽学校における留学生関係文書を目録化するとともに、その内容について分析し、主に学資支給を巡る問題などを通じて、当時の(主として中国からの)留学生が置かれていた状況について考察を行った。
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