本研究は、東京音楽学校における音楽の専門教育を事例として、日本における近代音楽文化の成立と変遷の様相を解明することを目的とする。このために、研究代表者が科学研究費補助金(平成17~19年度)を得て遂行した研究「近代日本における音楽専門教育の成立と展開」(基盤研究(B))の成果であるデータ・アーカイヴを活用、その調査研究を発展的に継承する形で、同校における音楽関係資料、とりわけ楽譜の収集状況、教育課程や教授・演奏活動の実態、学生の実像などを多角的に検証し、近代日本における西洋音楽の受容と、日本伝統音楽の再編・継承が、官主導の下でどのように行われたかを解明する。この際、特に周辺諸国からの留学生の動向に注目し、東アジアの近代音楽文化形成に対し日本が果たした役割についても考察を加える。これにより、複数の文化が複雑に絡み合う動的なプロセスを多角的に分析し、近代日本音楽史を新しい光の中で描き直すことが可能となろう。同時に、本主題に関わりが深い、これまで詳細に知られていなかった各種資料を整理・アーカイヴ化し、それらへのアクセスを広く可能にすることで、日本のみならず、アジア各国における文化の近代化の問題を扱う研究者の便宜を図り、歴史・文化研究一般の進展に寄与することを目指す。
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