研究課題/領域番号 |
20320039
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
中山 昭彦 学習院大学, 文学部, 教授 (80261254)
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研究分担者 |
佐藤 淳二 北海道大学, 大学院・文学研究科, 教授 (30282544)
十重田 裕一 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (40237053)
応 雄 北海道大学, 大学院・文学研究科, 准教授 (50322772)
城殿 智行 大妻女子大学, 短期大学部・文学部, 准教授 (00341925)
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キーワード | 映像表現 / 言語表象 / 日本近現代文学 / フランス文学 / 中国文学 / 危機の表現 / 戦争映画 / トラウマ |
研究概要 |
1、前年度までの検討の成果を受けて、研究代表者および研究分担者が個々に担当してきた対象領域の関連性を最終的に検討し、第二次大戦下における戦争プロパガンダに対する文学と映画の共犯性と抵抗可能性の両面を総合的に究明した.またそれとともに、戦後に発表された映画と文学およびその他の戦争を対象とした戦争の記憶に関する表現の諸様態と、戦争トラウマとの相互関連性が検討され、これについても総合化が行われた。 2.戦争プロパガンダに関する抵抗に関しては、フランスのレジスタンス映面に散見され、中国の上海系の映画にも隠微に見られる要素が、日本の映画にも十分に確認できることが明らかになった.戦時下における成瀬巳真男、マキノ雅弘、清水宏といった映面作家の作品には、見えにくくはあっても根底的な抵抗を示す表現がみられ、それが映画本来の表現性とも関連して、フランスと中国の映画における抵抗と比べても、きわめて高い水準にあることが明らかになってきた.一方、坂口安吾、中村光夫、武田泰淳などの文学的な抵抗は、フランス文学研究や断片的な批評などで実践されるにとどまり、戦後に開花する潜在的な可能性を十分に伺わせはするものの、小説という形態に結びつかなかった点において、中仏の文学的な成果とは距離があることが示された。こうした映画と文学の抵抗の可能性は、当時は十分に評価されることがなかったものの、他の戦争プロパガンダへの抵抗に応用しうる点で、十分な批評性=批判性をもつものといえる。 3、一方戦災体験者を含めた戦争トラウマと戦争の記憶の関連性に関しては、日本の戦後文学と映画における戦争の記憶の問題が、ラランスの戦後文学・映画におげる同種のテーマの追求と通低していることが明らかになった。しかし、アラン・レネの映画『ヒロシマ・モナムール(24時間の情事)』ほどの直接的なトラウマと記憶の関連性を示したものがどの国の作品にも少なく、間接的なものにとどまっているという問題点も示された。またアメリカ映画の「ディア・ハンター』などの帰還兵ものに描かれた戦争トラワマが、自国民の受けた傷にのみ焦点を当てがちな欠陥があることも浮かび上がってきた。日本の戦後文学における戦争の記憶についてもこうした傾向があることは否めないが、トラウマが後に記憶として再生されることによって固定化することを考え合わせれば、日本の戦後の文学と映画の記憶の表現には、そうした固定化を避ける表現が多く見られる点で、トラウマ化を超えた記憶再生の可能性が呈示されており、それが戦後フランスの映画や文学と通底する重要な要素であることが究明された。
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