研究課題
本年度は、バーンズ訳『天路歴程』について、これまでの研究を整理した知見をもとに「Burns訳『天路歴程』の伝播と変容」(『超域文化科学紀要』第14号)を発表し、東アジア世界におけるキリスト教の布教において漢文体が果たした役割について、その一端を明らかにした。整理執筆の過程で生じた書誌学上の疑問を解決するために、オクスフォード大学ボドリアン図書館への現地調査を行い、所蔵本のうちに、アモイで出版されたバーンズ訳の初版が含まれていることを確認し、オーストラリア国立図書館所蔵本との比較を行うことができた。また、その調査においてバーンズ訳とは異なる文言訳も発見し、上海語訳についても全文を確認することができた。これらの成果については、最終年度中に何らかの媒体において報告する予定である。また、東アジアにおける漢文体について引き続き全般的な調査と研究を行い、とくに明治期の中国紀行文や米欧紀行文、また福澤諭吉の文章などについて、具体的な分析によって得られた成果を図書や雑誌などの媒体で公刊し、それらの成果にもとづく知見を共有するために、複数の学会発表も行った。福沢諭吉による文体革新を近代訓読体の成立と対比しつつ分析したことは、近代における漢文体の位置を測る上で有効な手法であった。なお、文言訳からの重訳である佐藤喜峰訳『意訳天路歴程』については、基礎的なデータを整備し、文言訳との比較を中心とする注釈作業を開始した。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件)
新古典文学大系明治編5『海外見聞集』のうち『訪事日録』注釈および解説「天然自由の文体」を分担執筆(岩波書店)
ページ: 455-516, 598-601, 683-693
沈国威・内田慶市編著『近代東アジアにおける文体の変遷,』のうち「近代訓読体と東アジア」を分担執筆(白帝社)
ページ: 109-119
超域文化科学紀要(東京大学大学院総合文化研究科) 14
ページ: 123-140
文学(岩波書店) 10-6
ページ: 38-48
米欧亜回覧の会編『世界の中の日本の役割を考える:岩倉使節団を出発点として』のうち「漢文脈の中の『米欧回覧実記』」を分担執筆(慶應義塾大学出版会)
ページ: 84-96