本年度は、前年度までに収集したオクスフォード大学ボドリアン図書館所蔵バーンズ訳『天路歴程』初版、新発見の文言訳である『勝旅景程』、さらに上海語訳について分析を進め、キリスト教が近代漢文体に与えた作用について、一定の知見を得た。 また、東アジアにおける漢文体に関する全般的な研究として、前年度に継続して福澤諭吉の文章観について考察し、また、夏目漱石の小説のうち、もっとも漢文脈的なテクストして知られる「虞美人草」について、その意義の再評価を行った。また、同様に古典テクストとの連関の深い志賀重昂『日本風景論』の文体についての考察を発表した。いずれも、近代日本における漢文体の位置を測る上で有効な作業であった。 さらに、本研究の中心的テクストの一つである佐藤喜峰訳『意訳天路歴程』について、基礎的なデータ(語彙・文体)の整理および文言訳との対照を行い、それにもとづいた注釈作業を前年度に引き続いて進めた。その成果は2012年3月までに公刊される予定である。
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