研究課題/領域番号 |
20320054
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
西川 智之 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 教授 (20218134)
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研究分担者 |
越智 和弘 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 教授 (60121381)
田所 光男 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 教授 (40179734)
長畑 明利 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 教授 (90208041)
上原 早苗 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 教授 (00256025)
谷本 千雅子 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 准教授 (90273200)
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キーワード | 世紀転換期 / モデルネ / ユダヤ性 / ジェンダー / 総合芸術 / 芸術誌 / 市民文化 / 欧米文学 |
研究概要 |
本研究は、19世紀後半から20世紀前半の欧米社会の変化を「境界の消失と再生」という観点から検討してきた。今年度は、研究の深化を図るとともに総合化を目指し、研究成果の一部を論文集として刊行した。 以下、本研究の研究テーマごとに、論文集の論文に沿って今年度の研究成果を要約する。 (1)民族の境界の消失と再生 「ユダヤ性」を取り上げ、世紀転換期の欧米文化の多様な側面に光を当てながら、それぞれが異なった観点から考察を試みた。越智は、ドイツ人のユダヤ人憎悪の源泉をドイツ人のキリスト教改宗への強制という過去の傷痕に見出すフロイトの系統発生説を取り上げ分析を行った。また、田所は、フランスにおけるユダヤ人の境界の複層的な特性を、直接訪れ調査を行った教皇領での体験を踏まえながら、詳細に論じた。そして長畑は、詩人ミナ・ロイの生涯をたどり、詩人の人生における地理的な越境を彼女が創作した詩と関連付けながら分析することで、20世紀前半期のユダヤ人芸術家のおかれた情況を浮き彫りにした。 (2)「男性-女性」の境界の消失と再生 松下(谷本)は、ヘミングウェイの短編「世の光」の解釈を例に、ポスト・アウティング批評の観点からの新しい批評のありかたを提案した。 (3)芸術の境界の消失と総合芸術 山口は「輪舞」という一舞踊形態にどのような意味が与えられていったのかを探ることで、20世紀初頭の市民文化の複雑な身体意識を読み取ろうと試みた。西川はウィーン分離派のベートーヴェン展のカタログとクリンガーの『絵画と素描』の比較を通して、そこに表明された芸術観の相違を指摘した。また、古田は創刊年の雑誌「ユーゲント」を一つのコラージュと捉え、分析を試みた。 このように、本研究では、世紀転換期の欧米の文化・芸術の多様な姿を浮き彫りにすることができた。しかし、他方それを統一的な形にまとめきれなかったことも事実であり、それはわれわれの今後の課題としたい。
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