研究概要 |
本研究は,同一メンバーによる平成17-20年度基盤研究(C)『語形成の脳内メカニズム--理論言語学と言語脳科学の協働による実証的研究』の継続として,(i)複雑述語を中心とする日本語動詞とその項関係の認知処理に焦点をあて、語の産出や理解にどのような心内・脳内メカニズムが関与しているのかを,事象関連電位(ERP)計測の手法を用いた実証研究によって明らかにすること,(ii)日本語処理に関するERPの基礎データを蓄積すること,の2点を目的としている。 本年度は,(i)については,19年度までに投稿していた使役文の処理に関する論文について,査読者のコメントを念頭に抜本的な改訂を行い,国際学術誌に再投稿を行った。現在,査読結果を待っている状態である。同時に,新たな実験実施の準備として,受身・可能形等の言語学的考察を行っている。 (ii)については,複文構造(埋め込み構造)の処理負荷に関わる事象関連電位のデータを収集した。上述の使役文の処理に関する研究は,接辞付加による複雑述語形成に伴う埋め込み構造(複文構造)の処理が鍵となっている。ところが,埋め込み構造処理については,日本語のみならず,多くの事象関連電位研究が行われている英語・独語についても,先行研究がほとんど存在しない。そこで,使役文に関わる結果と対比考察するために,二つの独立した述語による埋め込み構造処理における事象関連電位のデータを収集した。具体的には,複文構造において主文主語を指す「自分」を含む文(e.g.,「受験生が,試験官が自分の受験票を確認したと言った」)の処理を,埋め込み主語を指す場合(e.g.,「試験官が,受験生が自分の受験票を確認したと言った」)の処理と比較することによって,埋め込み構造の処理負荷がどのように顕れるかを検討する。実験は終了し,データの解析は21年度に行う予定である。
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