研究課題/領域番号 |
20320069
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊藤 たかね 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (10168354)
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研究分担者 |
萩原 裕子 首都大学東京, 大学院・人文科学研究科, 教授 (20172835)
杉岡 洋子 慶應義塾大学, 経済学部, 教授 (00187650)
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キーワード | 言語脳科学 / 事象関連電位 / 言語処理 / 形態論 / 統語論 |
研究概要 |
本研究は,「語」の認知処理に関わる心内・脳内メカニズムを,事象関連電位(ERP)計測の技術を用いて解明することを目的としている。具体的には、演算と記憶という質の異なる複数のメカニズムが「語」の処理に関与することを示す根拠を蓄積することを目指している。 2011年度は、まず2010年度に行った埋め込み構造処理に関わる実験結果を論文としてまとめる作業を行ない、研究発表欄のOkabe et al. 2011として論文集に掲載された。また、2011年6,月に韓国英語学会の招聘を受け、この実験の結果を含む内容について招待講演を行った。単文構造を想定していた読み手が複文構造であることを認識した時点で,前頭陰性波(AN)成分が観察されることを論じた。この結果は、本研究グループによる使役動詞に関わる研究結果と整合するものである。 また、昨年度、震災の影響で一部延期された日本語動詞の屈折に関わる実験を終了し、その結果の解析を行った。この実験では、子音動詞(五段活用動詞)の否定接辞(「-ない」)に接続する形が完全に規則的で予測可能であるのに対し、過去接辞(「-た」)に接続する形が音便変化を含み、例外を持つことに着目し、否定形の形態違反(「読みない、読むない」)と過去形の形態違反(「読みた」)を読んだ際のERP反応を、それぞれの正しい形との比較において計測した。結果としては、「連用形+ない」にはP600、「終止形+ない」にはLANに似た成分とP600、「連用形+た」にはN400とP600が観察された。陰性成分の相違は、違反検知に用いられる処理過程の性質の差を反映していると考えられ、例外のない否定形の処理には演算規則が、例外を含む音便形の処理には記憶が関与していることが示された。この結果は7月に国際会議で口頭発表を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた可能述語と自動詞との比較に関わる実験の計画は予定より遅れているが、動詞の屈折に関わる実験は順調に終了した。結果は、当初想定していた基礎データの蓄積にとどまらず、理論的に興味深い結果となったため、追実験を計画する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
屈折違反の実験は当初の想定以上に興味深い結果を生んだが、統計的にはやや弱い結果でもあるため、議論を補強すべく、行動実験を計画する予定である。 当初予定していた可能形に関わる実験案は、刺激に用いることのできる語数の制約等があり、予定通りに進められずにいる。今後さらに検討を加える作業と平行して、別の実験可能なトピックを検討する予定である。現在、連濁に関わる2種類の違反が候補として挙っており、検討中である。
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