研究課題/領域番号 |
20320076
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
椎名 紀久子 千葉大学, 言語教育センター, 教授 (40261888)
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研究分担者 |
嶋津 格 千葉大学, 専門法務研究科, 教授 (60170932)
南塚 信吾 法政大学, 国際文化学部, 教授 (50055315)
森川 セーラ 千葉大学, 言語教育センター, 特別語学講師 (80506882)
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キーワード | クリティカル・シンキング / 論理的発表力 / 教材と指導法 / 歴史教育 / 英語力 / 国語力 / ドイツの言語技術育成 / Thinking Map(思考のマッピング) |
研究概要 |
本科研の目的は日本語(母語)と外国語(英語)で「批判的に読解」(Critical Reading)し、「論理的に発信」(Logical Presentation)する力を、小中高大で系統的に育成する指導システムを構築することにある。本年度はクリティカル・シンキング(CT)の定義として規定した「複数の視点から他者の意見を理解し、自己の考えを客観的に精査して論理的に思考し発表できる力」を、教育現場でいかに育成するかについて、「指導法開発」と「教材作成」の観点から研究した。ドイツではクリティカル・シンキングは「アカデミックな知識の集積」や「実社会で生きる力」の根幹をなす極めて重要な思考力とされ、小・中・高の全教科の指導の中心に据えられている。そこで椎名は、ハンブルク市とミュンヘン市の学校教育の視察、授業参観、教師や教育庁のカリキュラム担当者へのインタビュー、教科書会社でテキストや副教材の資料収集をして、CT育成のための「題材選定」と「指導法」のあり方について多くの指針を得た。ハンブルク市の中等学校(ギムナジウム:5年生-12年生)では、ドイツ語(母語)と英語(第二外国語)で「歴史」科目を指導する授業を参観した。ドイツでは、「歴史科目」はCT育成に最適な科目として位置づけられ、生徒は特定の題材(例ナチス、トータリズム、ホロコーストなど)について、協働で資料(映画、新聞記事など)をクリティカルに視聴・読解して意見交換し、その結果をグループでロジカルにプレゼンテーションするという、「思考と言語が密着した授業形態」であった。教師が淡々と歴史的事実を説明し、学習者はその内容を丸暗記する日本の教育方法とは大きく異なる授業展開であった。森川は「思考のマップ化」を授業で実践し、指導法と教材開発の準備を進めた。南塚はCTを根幹に据えた史学方法論を視野に入れて、「日本語と英語の比較的小さな歴史史料」を一点ずつ取り上げ、それを「批判的思考の発達段階」に合わせて「いかに質疑していくか」について考察し、教材化の準備をした。法哲学者の嶋津は、学部2~4年生向けの「法思想史」のゼミで、1)デカルトの『方法序説』の一部とハイエクが「二つの合理主義」で行っているデカルト派に対する批判の比較検討、2)ホッブズ『リヴァイアサン』の一部と笹倉教授による標準的理解に対する嶋津の批判的コメントの比較検討を課題に課す指導をした。さらに1)J.S.ミル『自由論』、2)R.イェーリング『権利のための闘争』、3)M.ウェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』のいずれかを読み、「著者の考えの誤り」と思われる箇所の指摘とその理由を論じさせたほか、標準的ではない解釈との比較、それへの批判を自分で考えさせる課題を与えてCTの育成を図った。以上のことから、各研究分担者は本年度の研究目的を達成し、本科研の最終目的に向けて一定の成果を上げることができた。
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