(1)本研究の第1の目的は、近世社会において特異異邦人として存在し続けた鹿児島苗代川の人々の歴史から幕藩制国家の歴史的特質について新たな視座を獲得しようとすることである。 (2)本研究の第2の目的は、民族差別の問題を近世と近現代を通観する問題を解き明かす中で考えることである。 (3)とりわけ第2の目的は重視され、本研究では、苗代川の人々のアイデンティティ問題を近現代日本の形成過程と並行的に考えていく。彼らは果たしてどのようなアイデンティティを育みつつ近現代日本を生き抜いてきたのか。 (4)苗代川の人々は近代に起源を持つ在日朝鮮人とはアイデンティティがやや異なっている。たとえば、アジア太平洋戦争の前後において2度外務大臣となった東郷茂徳の生涯を追うことでその一端を考える。 (5)以上のことを通じて、在日朝鮮人総体の問題の本質を探っていく。苗代川の歴史は、「もう1つの隠された在日朝鮮人史」にほかならない。
|