本研究は、富本銭と無文銀銭、和同開珎の分析を通して、わが国の貨幣制度の成立過程を考究し、新たな視点から初期貨幣史の再構築を目的としたものである。平成22年度は実施計画に沿って以下の研究を行った。 1. 弥生・古墳時代の我が国出土中国銭貨の集成作業では、55遺跡から約250枚の出土例を収集した。青銅器原料として我が国にもたらされた中国銭貨の一部が祭祀に使用された事例を確認でき、銭貨の祭祀的使用法の淵源を探ることができた。 2. 飛鳥池遺跡と藤原宮大極殿院出土富本銭の比較研究では、従来の七曜文の解釈に加えて、中央の太極から上下の両儀、両儀から四象が生じる両儀四象生成の文様であることを明らかにした。 3. 和同開珎の生産体制の復元研究では、銅銭の大量生産化を図るために中央で製作した種銭を各地の国衙工房に供給して生産した状況を推測できたが、和同銀銭の発行意図や銀銭の生産地の解明が今後の課題として残された。 4. 日本初期貨幣史の再構築に向けて研究史の整理を継続し、7世紀後半の銀・銅銭や和同開珎に関する通説の成立過程とその矛盾点を明らかにした。 5. 研究集会「古代長門の産銅と銭貨生産」を長登銅山文化交流館で開催し、長門鋳銭所跡の発掘調査成果、山城国府跡出土銅塊の科学分析に関する研究報告をめぐり研究者間で議論を交わした。 6. 平成21年度に開催した研究集会「和同銀銭の鋳造技術をめぐる諸問題」の研究報告書『古代銭貨の復元鋳造実験』(A4版120頁)を刊行した。
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