(1)『奏〓書』の研究について。 『奏〓書』の読み下しと訳注の校正を行った際、原文の中から新たに、以前必ずしも認識されなかった判例の引用が判明した。事案3・4・7・8・18・21には、判例に関する情報が含まれており、厳格な制定法主義を前提とする伝統中国の行政的な裁判においても、判例が法の形成において重要な役割を果たしたことを示す。これについて分析を行い、すでに海外調査中に、華東政法大学にて「從張家山漢簡《奏〓書》談制定法與判例的關係」と題する簡単な研究報告を行った。 さらに、海外調査中に、現地の研究者との交流を通じて、『奏〓書』の正確な解読について、中国にも高い需要があることを感知し、日本の高度な法制史研究の成果を海外に発信する利便性に鑑みて、訳注の制作及び公表計画を中国語に切り替えることを決心し、すでに一部の中国語訳の作成に着手した。 (2)秦代簡牘史料の再検討。 秦の官府の管理及び運営体制を理解する上で不可欠な基礎史料となっていながら、まだ正確な訳注が公表されていない雲夢睡虎地秦簡『秦律十八種』の各篇(田律・厩苑律・倉律・金布律・関市律・工律・工人程・均工律・徭律・軍爵律・置吏律・司空律・効律)について日本語の読み下し文を作成した。作成の過程で、従来の釈文と注釈になお少なからぬ誤りが含まれていることが判明し、その訂正に努めたが、全面的な訳注の作成については、官府の運営実態を反映する里耶秦簡や西北地域出土の漢簡との比較研究が待たれるため、まだ公表できる状態には至っていない。
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