本研究は、張家山漢簡『奏〓書』において文書様式の原形が多く保存されている点に着目し、奏〓文書を文書行政の研究に活用する一方、他の文書研究の成果を『奏〓書』の研究に応用して、張家山漢簡『奏〓書』の釈文の再検討を行った。その結果、従来の釈文において多くの誤釈および配列の誤りを発見し、近くその成果を復旦大学出土文献与古文字研究中心の陳剣教授との共著等の形で公にする予定であるが、成果を纏める過程において、本年度4月から6月にかけて、上記の出土文献与古文字研究中心のほか、中国政法大学法律文献整理研究所・武漢大学簡用研究中心等で『奏〓書』の読書会を開き中国の古文字と法制史の多くの専門家と議論を重ねてきた。 その中では、6月に湖南大学岳麓書院を訪問したのが、本研究を大きく躍進させるきっかけとなった。岳麓書院には、現在約2200枚の秦代の簡牘が所蔵され、その三分の二以上が法制関連史料によって占められる。中には、奏〓文書と思われる簡牘は、約250枚あり、張家山漢簡よりもさらに遡って、秦代における奏〓制度の運用実態を伝える貴重な史料となっている。しかし、整理小組には、法律専門の研究者がおらず、整理に困っていることを、6月訪問の際整理小組を指揮する陳松長教授に告げられ、相談の結果陶安が整理小組に加わることが決まった。その後は研究資源を主としてこれらの文書簡牘の整理に集中的に投入して、現在の段階で約220枚の簡牘の初歩的釈文と配列案が完成している。 また、中国西北出土簡牘文書史料の再検討に向けて、台湾中央研究院歴史語言研究所所蔵居延漢簡の現地調査を二度実施し、主として木簡の形態調査(重量・長さ・形状の測定)に力を注いだ。
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