24年度は23年度に引き続き嶽麓書院所蔵秦簡の司法文書簡牘の整理に重点を置いて、秦代における文書行政の仕組みについて、1、残簡の整理、2、簡牘背面の印迹と清理位置の分析、3、文書構造表に基づいた現代中国語訳と日本語読下し文の作成、4、法学的分析に重点を置いた注釈の作成という四つの作業に分けて研究を進めた。 1、記載内容・形態・残欠状態・筆跡によって残簡を分類した上、残簡相互の綴合および他の欠損簡との綴合を行った。それによって、多くの遺漏箇所を補填することができた。 2、埋蔵期間中他の簡牘との接触によって生じた背面の印迹(鏡文字)と清理位置の分析を通じて、冊書の元の姿を復元した。背面印迹と清理位置は、冊書における各簡の位置情報を提供し、23年度に行った背面の刻み込みの分析を補強する意味を持つ。欠簡の数量と位置を含めて、第一種と第二種の文書群については、簡牘の排列をほぼ完全に確定することができた。 3、簡牘のより正確な排列案に基づいて文書構造表を修正した上、各文書の現代中国語訳と日本語読下し文を作成した。現代中国語訳は、釈文の意味論的検証、日本語読下し文は、統合論的検証に用いた。 4、簡牘排列の最終的な確定を受けて、再度『奏讞書』との比較研究を行ったが、現代中国語訳を作成するに当たり、『奏讞書』と同様に、文書用語と法律用語の一覧表を作り、用例の比較を通じて概念の正確な意味を析出した。それによって、当時の司法手続および奏讞手続のより正確な復元が可能になり、それを基礎に作成した注釈には、本研究の法学的知見が凝縮して表現されることとなった。 嶽麓書院所蔵秦簡の司法文書簡牘は、秦始皇帝の時代に、南郡の下級役員が蒐集した司法文書の集成であるが、形成期における帝制文書行政の運用実態を現代に伝える点に最大の特徴と意義がある。
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