2010年度は、とくに企業買収法制の運用にかかわる実務の検討に重点をおいた。フランスでは公開買付けは資本市場の監督当局である「金融市場機構(AMF: Autorite des marches financiers)」の監視のもとに行なわれる。AMFの年次報告書において当該年度になされた公開買付けの内容を確認することができる。 とくに、2004年5月にSanofis社がAventis社に対する敵対的な公開買付けを行なおうとした際にAventis社がとった防衛策は、同社の株主に対して一定の条件のもとで新株引受権を付与するものであり、AMFは同社の防衛策について、公開買付けの良好な展開を規律する諸原則に収まらないと考えるとする意見を公表している。 そのような買収防衛策に関するこれまでのAMFの運用を検討し、2004年4月21日の欧州共同体指令をフランスにおいて国内法化した2006年3月31日の法律が定めた企業買収法制の内容をそれに照らしあわせて確認することにより、法律制度とその運用からなる企業買収法制の動態を明らかにしようとした。とりわけ、2006年3月31日の法律の制定の際に認められた買収防衛策がAMFの買収防衛策にかかる運用のもとでどのように位置づけられるのかに注目した。 現在、これまでの検討をまとめて順次発表していくための作業を進めている。あわせて、副次的にフランスにおける会社役員の報酬規制の内容を検討し、その成果は、拙稿「退任した元会長に対する株式会社の年金支給一株式会社カルフール(SA Carrefour)事件」国際商事法務39巻4号(2011年4月)、および、拙稿「会社役員の報酬規制とフランス会社法」奥島孝康先生古稀記念論文集(成文堂)として公表される。
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