研究概要 |
本年度はまず分割可能な財を取引する市場では,どのような状況の下で完全競争的な均衡が複数存在するかについて,できるだけ単純でわかりやすい条件を導くことを試みた.モデルとしては,3種類の商品ど3つのタイプの消費者が存在する純粋交換経済を考え,各消費者の効用関数はすべて経済学で用いられる代表的な関数である2次関数やCES関数で表されることを想定した.その結果,このような経済においては,一般に商品の消費者への初期分配により必ず均衡は複数存在することが判明した.また,そのような複数均衡の存在は商品価格が均衡に収束するか否かという意味での「動学的安定性」にどのように影響するかを調べた.その結果,不安定な均衡の中には価格の初期値によっては収束する鞍点(saddle point)になるものもあれば,均衡以外のどの初期値からも収束しない完全な不安定点にあるものもあることが判明した.また分割不可能な財の市場に関して,複数の経済主体が戦略的に提携を形成することが可能な市場を想定し,各取引主体が先を見越した先見的な行動をとった場合の均衡状態について考察を行った.そして最後に特許のライセンスの取引市場に関して,戦略的な提携の形成の可能性に加えて取引主体の交渉を取り入れた場合の均衡状態についてその構造を調べた.その結果,分割不可能な財の市場と特許のライセンスの取引市場の均衡においては,フォン・ノイマン-モルゲンシュテルン解の意味での「内部安定性」と「外部安定性」についてこれまでに得られていなかった新たな知見が得られた.
|