本研究の目的は金融危機によって経済のマクロ的な定常状態が長期的にシフトする可能性を理論的に分析することであった。そのために無限に均衡が存在する動学モデルを構築し、分析することとしたものであるが、無限に均衡が存在するモデルの取り扱いが困難であることが、2008年度にセミナー発表、査読等で内容を詰めるうちに徐々に明らかとなった。そのため、2008年度は、本来の目的をより簡便にモデル化する努力を行い、新しいモデル化の枠組みの構築を行った。具体的には、Lagos and Wright(2005)の理論枠組み(サーチ理論をベースにした貨幣経済モデル)を応用し、定常状態が二つ存在するマクロ経済モデルを作成した。このモデルで、金融危機によって高位均衡から低位均衡に経済がシフトし、長期的に不況が続く可能性があることが示された。 さらに、Lagos and Wrightの枠組みは貨幣と財の区別があるモデルであり、大変トラクタブルなので、この枠組みを使って、銀行の預金取り付けのモデルを作る試みを開始した。貨幣モデルを使った銀行取付のモデルは、従来の銀行取付モデル(Diamond and Dybvig(1983)を基盤とした銀行理論が主流である)と異なり、貨幣と財の区別があり、新しい政策的含意を有すると予想される。したがって、貨幣的な銀行取付モデルは2009年度以降の重要なテーマとして発展させるつもりである。
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