研究概要 |
持続可能な医療・介護保険財政に関する研究課題として,長期の医療・介護費用と国民所得を予測する医療・介護保険財政モデルの改良を進めた。今年度の大きな進展は,医療・介護費用,金利と成長率を確率的に生成する確率シミュレーションが実施できるようにモデルを拡張したことである。 世代間の負担の状況は確率的に表現されるが,積立方式への移行は,現行制度を維持するのに比べて世代間格差を縮小させる結果となることがおおむね成立することが明らかになった。この結果は定性的には従来の確定的モデルと同様の帰結である。積立方式が経済環境の不確実性に影響を受けることは,そこに移行する改革を退ける理由とはならないことが示唆される。移行過程での保険料率に影響を与える要因としては,金利あるいは積立金が高いほど保険料率が低くなるという関係を見ることができる。 積立方式へ移行するためには,確率変数の将来の実現値によって保険料を逐次変更していくことを必要とするが,保険料変動に激変緩和措置を設けると,積立方式への移行に失敗してしまうケースが多く発生する。積立方式への移行には,環境変化への柔軟な対応が必要であることが示唆される。 つぎに医療・介護サービスの効率化・改善に関する研究課題としては,介護保険データのレセプトデータを用いて、2006年度の介護予防給付の導入が要支援者の要介護状態の悪化を防ぐ効果をもったことを検出した。 これらの研究成果を土台として社会保障の制度設計への含意をまとめた「社会保障財政の長期的課題」を,日本応用経済学会招待講演で発表した。
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