本年度は、金融制度改革に関する実証分析および、それを踏まえたマクロ経済の影響に関する考察において、かなりの進展が得られた。これらの結果は、今後書籍化して公表する予定である。 まず、金融制度の変遷については、リーマンショック以降、世界中で様々な局面の制度改革が行われてきたが、それらの制度改革について整理を行い、実証分析を行うとともに、今後の制度環境整備のための基礎づけを行った。また、実証分析については、リーマンショック以降の新たな改革だけでなく、それ以前に我が国が行ってきた制度改革の影響についても、引き続き実証分析を行った。特に買収防衛策の影響については、今後の我が国の金融制度を考えていく上では、やはり重要なものであり、詳細な分析を引き続き行った。そこで、防衛策導入企業の株価へのマイナスの変化は、防衛策が制度的に導入可能になった2005年時点の短期のみに観察され、また、それらの企業は防衛策導入後業績が優位に低下していることが観察された。これらの点から、制度的に導入可能になった時点での買収防衛策の導入は、将来の業績悪化のシグナルとして機能していたと考えられる。 このように制度導入時点での企業の行動は、その後とはやや異なった動きをすることが明らかになってきた。この点が示していることは、制度の影響を導入直後のデータだけでみることの危うさであり、その視点から他の実証分析についても見直しを行った。 また、このような制度の実証分析から浮かび上がってきたことは、金融市場が完全競争市場のようには機能しておらず、市場が不完全になっていることである。そこで本研究においても、そのような市場の不完全性がマクロ経済のパフォーマンスにどのような影響を与えるかを詳細に分析し、バブルの発生やその崩壊の説明も含め、多くの成果を得ることができ、崩壊の際の制度設計をどのようにすべきかについても多くの知見を得た。
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