研究概要 |
本研究では、個人投資家のネット取引にどのような行動パターンがあるかを解明することを目的としていたが、2008年に起こったリーマンショックという100年に一度の金融危機により、個人投資家の取引データの提供に関して、交渉をしていた相手先の證券会社が、その存続の危機に直面した。企業が存続するか否かというような状況では、データ提供に関する話し合いを中断せざるを得なくなった。結局のところ、交渉相手の移動などもあり、ネット取引データに関しては、今のところ入手の見込みが立っていない。そこで、本来の研究計画目的を拡張し、ネット取引の主体である個人投資家の株式市場への影響を分析することとした。とくに、株式市場で観察されるアノマリーと呼ばれる特異な現象について、個人投資家の投資行動との関係について分析を始めた。すでに、個人投資家が主役の信用取引に関しては、信用取引データの中に、株価の将来を予測する情報が含まれていることを示した(Hirose, Kato and Bremer, 2009)。当該年度においては、日米で異なるアノマリーが観察されることに焦点をあてて、日米の投資家行動の違いについて分析を始めた。最近の研究では、文化の違いが投資家行動に影響を与えるという報告もあり、アノマリーの違いが文化の違いで説明出来るのか、現在モメンタムというアノマリーに焦点をあてて分析を行っている。モメンタムアノマリーとは、短中期(3~6ヶ月)で価格が上昇(下降)した銘柄は、次の短中期(3~6ヶ月)でも上昇(下降)するという市場の効率性に反する事象である。欧米で強いモメンタムが見られるのに、日本の市場で見られないのは何故か。グローバル化がもっとも進んだといわれる金融市場でこのような違いが見られるのは不思議である。現在、日本市場においてグローバルに取引される銘柄とローカルな銘柄による違いを検証している。
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