研究概要 |
日本企業のコーポレートR&Dのパフォーマンスはどうすれば向上するのだろうかというテーマについて,今回の研究では,概念や理論の生成を目的として,フィールドワークをベースとした質的研究を実施した。世界的にも優秀とされている企業内研究所における研究プロジェクトの構想形成プロセスと,その共同研究のプロセスを対象とし,参与観察,およびインタビュー調査を実施し,研究構想の形成過程に影響を与えるような要因を概念化すべく研究を進めてきた。 昨年度の成果としては,一昨年度の参与観察によるデータ収集を経て,そのコーディングと概念化,およびインタビュー調査による周辺情報の収集などを進め,学会報告,モノグラフの執筆および論文の執筆を進めてきている。その成果として,過去の共同研究など外部のプレイヤーとの協働経験によって蓄積された,エコシステム全体の知識が,その後の研究構想の形成において重要な役割を果たしており,実際に研究や技術開発のパフォーマンスに影響を及ぼしていること,企業のコーポレートR&Dにおける他企業や大学との共同研究における研究成果は,コミュニケーションや学習意欲などのような過去に指摘されていた要因よりは,むしろアジェンダ設定のジレンマ問題,すなわち何を学習するのかわからないにもかかわらず学習すべき対象を自社主導で決めなければならないという問題によって左右されること,および企業内研究の構想形成において技術的レベルで見た「多角化」が起こっていることを指摘したうえで,そこでは,既存技術の担い手が,新しい文脈の中で絶えず自分の知識の価値を回顧的に位置付け直していることを示した。 研究の一部は既にヨーロッパの組織学会(EGOS)にて先行して発表しているが,それに加えて,現在モノグラフと2本の報告を用意している。論文のうちの1本は,2011年度のヨーロッパ組織学会に報告予定であり,既に査読を通過している。
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