研究概要 |
本年度は,「日本型HRM(人的資源管理)システム」モデルの構成要素のうち,とりわけ(1)ワーク・ライフ・バランス(work- life balance)制度,(2)組織市民行動(organizational citizenship),の2点に関して,ともに国際比較を念頭に置きつつ,理論研究と実態調査を行なった。 (1)のワーク・ライフ・バランス制度については,日本型HRMシステムの構成要素としてのワーク・ライフ・バランス制度が,どの程度,国際的な普遍妥当性を有しているかについて,特にワーク・ライフ・バランス制度に焦点を当てて考察を行なった。その結果,日本企業における現状のワーク・ライフ・バランスの諸制度の多くが概ね,ヨーロッパ(オランダ,イギリス)やアメリカといった諸外国のモデルを,明示的であれ,暗黙的であれ,参考にしながら構築されており,とりわけ労働時間短縮どいう論点に関してその傾向が強いことが明らかになった。 (2)の組織市民行動については,日本企業およびアメリカ企業における従業員(正社員)の組織市民行動を比較した結果,当初の予測に反し,アメリカ企業より日本企業の方が,組織市民行動を行なう頻度と範囲が統計的有意に低位にとどまっていることが判明した。こうした当初の予測と反する結果が導出された1つの原因として,組織市民行動なる概念それ自体が,アメリカでの経営学の学的発展の影響を木きく受けた概念であり,またシティズンシップ(「市民」)概念もヨーロッパの市民概念とは含意する意味内容や規定が我が国のそれと異なっていることに一因がある可能性があることがわかった。
|