中小企業のネットワーク構築戦略について、過年度の蓄積を国内外に発表するのが本年度の中心的な課題であった。それらの課題は、ほとんど達成することができた。まず、書籍の出版をおこなった。これは、中小企業のビジネス・ネットワークの構築戦略について、開発と適応の2次元の枠組みで整理することができる。そして、実際それらの枠組みに適合するようなビジネス・ケースを発見することができた。中小企業は、一般的な技術力を開発するか、顧客にカスタマイズするように製品を開発することで成長を実現する。その際、ある種の条件に応じて、その手法を変容したり、複数持ったりすることがある。われわれは、この2次元の高低で整理される戦略枠組みでの移動が、イノベーションであると考えている。このような移動は、資源の新結合を必要とするからである。 それは、中小企業は利用可能な資源に制約があり、それをネットワークによって補うからである。ネットワークとは資源の拡張に他ならない。たとえば、大企業と取引ができるということは、大企業の持つ背後の取引連鎖、つまりネットワーク資源を活用できるようになることを意味している。それは単なる顧客以上の存在なのである。本書籍は、単なるケース集にとどまらず、理論的枠組みを持った研究書である。 海外での発表は、ピアレビューもあり、採択までも期間が長く非常に大変であるが、本年度は5回の国際学会発表に成功した。すべての発表が、ネットワーク論か、中小企業戦略論の理論的な基礎に立脚しており、本理論のスケーラビリティあるいは応用範囲の広さが理解できる。これらの成果によって、本研究は所期の目的をかなり達成したと考えられる。
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