欧州で主流化した医療・保健・福祉・介護サービス提供システムのプロトタイプである「統合的ケア」について、わが国における「地域包括ケア」の今後のシステム構想への含意を含めて、総合的に構造分析することが、本研究の課題としたところであった。東日本大震災による研究期間延長期も含め、次のような成果を得ることができた。 第1に、「統合的ケア」には、WHOが途上国モデルとして開発した統合的プライマリケア、アメリカ発のクリティカル・パス、それに欧州における医療制度改革の3つの文脈があり、「統合的ケア」構想はOECDのケア・コーディネーション構想と並んで、先進少子・高齢社会における一括的制度改革の戦略手段であることが明らかになった。 第2に、「統合的ケア」は、フィンランド、スウェーデンの実践から、QOLと結びついたサービス・プロセス・エンジニアリングのイノベーションを伴うシステム構想であることが明らかになった。とくに、ICTの導入方法、専門人材の育成方法の改革、労働組織の合理化など、トータルなプロセス改革を内包している点が解明された。 第3に、「統合」と言っても、制度レベルの統合性推進とサービス臨床レベルにおける多専門性連携の2つの要素から成り立っており、目標の統合性とサービスプロセスにおけるチーム労働性は分別して理解すべきことが分かった。 第4に、わが国の「地域包括ケア」構想のように、「新しい公共」を含みこむところまでの展開は弱いことも分かった。 なお、現在、成果公開として『統合的ケア』(法律文化社)を執筆中である。
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