研究概要 |
本課題においては,1)子どもの語彙獲得メカニズムの成立過程2)その洗練過程を2本の柱として研究を進めてきた。1)に関しては,乳児を対象とした実験を行うことにより,日本語環境で育つ乳児は1歳半ころになれば,助詞を手がかりとして隣接する単語を"名詞"(隣に助詞がくることができる単語のグループ)へと分類できるようになっていることを見いだした。2)では,(1)幼児の形容詞学習方略の発達と,(2)オノマトペ理解の発達に関して成果が得られた。まず,(1)について言うと,初めて耳にした単語が"い"で終わる形になっていればその単語はモノの名前と考えるべきでないことは3歳の子どもでも十分に理解できているが,その単語に意味として対応づけるべき属性を目の前のモノから取り出すことは高度な認知操作であるため,子どもにとって形容詞の学習は,モノの名前の学習にくらべて難しく時間を要するものとなっていることを明らかにした。一方,(2)では,"ドンドン/トントン"のような,子音の有声性において対比される擬音語ペアにおいて,有声音の擬音語は,より大きな対象から発せられるより大きな(重い)音をあらわし,無声音の擬音語は,より小さな対象から発せられるより小さな(高い)音をあらわすといったことの理解の発達を取り上げた。結果として,子どもは4歳ころまでには,実在の(既知の)擬音語ペアばかりでなく,初めて耳にする擬音語ペアにも,このようなルールをあてはめ,その意味を推測できるようになっていることがわかった。また,これだけ早期に子どもが,このような一般的な感覚(特定の,知っている擬音語ペアに限定された"知識"ではなく,新しい事例にも拡張できる一般性を備えているという意味での"感覚")を備えるようになることを支えている要因として,母親の擬音語発話の音響特性に注目した分析も行った。
|