研究概要 |
本課題は,1)子どもの語彙獲得メカニズムの成立過程,2)洗練過程,を明らかにすることを目的としている。このうち1)では,乳児を対象とした実験を行い,大きなモノは低い音を出し、小さなモノは高い音を出すということを,子どもはいつから理解しているのかを調べた。大人(母親)は子どもへの話しかけにおいて,大きなモノが発する音などに言及する時は低い声を、小さなモノに言及する時には高い声を使うというようにして"声の演技"をするが,子どもの側はそれを利用できる能力を備えているかは不明だったからである。結果,子どもは10か月の時点では,音の高低(ピッチ)と物体の大きさとを関連づけてはいないことが明らかになった。大人の"声の演技"に見られるピッチとモノの大小との対応は,子どもの側に初めから備わっているというより,子どもはそのような大人の抑揚から自然に語るための抑揚のつけ方などを学んでいくことが示唆された。 2)に関しては,昨年度に引き続き,"声の演技"を大げさに行う母親の子どもの方が,そうでない母親の子どもより,擬音語理解が進んでいるのかを調べるために,2歳児を対象に実験を行った。結果は全体として,"声の演技"をよくする母親の子どもほど擬音語理解が早いといった関連は必ずしもないことを示すものだった。しかし,語彙の大小で子どもをグループ分けしてみると,語彙の大きな子どもたちでのみ,母親の"声の演技"と子どもの擬音語理解とのあいだに正の相関が見られた。すなわち,この結果は,語彙をある程度獲得したあとでないと,子どもはおとなの"声の演技"を単語(擬音語)習得の手がかりとできるようにはならないことを示唆するものであり,1)の知見とも整合的な結果と言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の交付申請では,オノマトペに含まれる音韻感覚の形成過程に関連して,1)大人の発話の音響的特徴を分析し,子どものオノマトペ習得との関連を検討すること,2)子どもは大人の発話のそのような音響的特徴にどれだけ敏感かについて検討することを,本年度の計画として掲げていた。そして,1)に関しては,大人の発話の音響的特徴を分析するだけでなく,そのような養育者の特徴と子どものオノマトペ理解の関連を,2)については,大人は大きなモノについて語る時わざわざ低い声色を使うが,子どもはこのようなモノの大きさと音の高低との関連をいつから理解しているかを検討し,いずれについても一定の知見を得た,
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,本研究課題の最終年度となるため,これまで得られてきた知見を論文化し,公刊していくことが中心的な課題となる。特に乳児を対象とした研究では,実験データの意味を明確にするための,補足的な実験やデータ分析が必要であることも明らかになってきているので,今後は,データの収集が終わっていない実験を終わらせるとともに,これまで得られてきた実験データを補強するための実験や,コーパス分析などを行っていく。
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