1)乳児向けの発話の分析: 日本語ではおおよそ、名詞は「直後に助詞がくることのできる単語」、動詞は「直後に活用語尾がくる単語」と定義することができる。すなわち、初めて耳にする単語でも、その直後にくる機能語に注目することで、その単語が名詞なのか動詞なのかを、見極めることができる、ということである。これまでの研究で、乳児も1歳半ころまでには、少なくとも、直後にくる助詞を手がかりとして、“名詞”という統語カテゴリーを理解するようになっていることが明らかになってきた。このような機能語の中で最初に乳児が手がかりとして使えるようになるのはどの助詞で、どの活用語尾なのかを明らかにするため、10か月、15か月の子どもに対する母親の発話を分析した。結果として、名詞につく助詞では「が」が、動詞の活用語尾では「っている」が最も頻繁に使われていることが明らかになった。 2)助詞を手がかりとした名詞の理解が可能になる時期についての検討: 上でも述べたように、本研究課題のこれまでの研究で、日本の子どもは少なくとも1歳半になるまでに、直後に助詞がつく単語のカテゴリー(=名詞)がわかるようになっていることが示唆されてきた。しかしその後、名詞分類の“難しさ”が、我々が実施した実験方法のアーティファクトである可能性が指摘され、本年度は、その点を改善した方法で再検討を行った。結果として、これまで見出されてきたよりさらに早く、15か月の時点で子どもは既に、名詞という統語カテゴリーを理解していることを示唆する結果がえられつつある。 3)アクセント違い単語の学習: 日本語では「飴」と「雨」のようにアクセント位置が違えば別の単語となる。本研究では、3歳児は既知の語とアクセント位置のみが異なる単語を新しい単語として学習できることを見出し、この年齢の子どもの語彙表象においてアクセントは重要な位置を占めていることを明らかにした。
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