研究課題/領域番号 |
20330136
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
松井 智子 東京学芸大学, 国際教育センター, 教授 (20296792)
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研究分担者 |
東條 吉邦 茨城大学, 教育学部, 教授 (00132720)
三浦 優生 金沢大学, 学内共同利用施設等, 助教 (40612320)
中村 太戯留 慶應義塾大学, 環境情報学部, その他 (80409797)
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研究期間 (年度) |
2008-04-08 – 2014-03-31
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キーワード | 自閉症 / プロソディ / 会話スキル / 対人コミュニケーション |
研究概要 |
今年度は以下の3つの調査を実施した。いずれもASD児と定型発達児20名程度を被験者とした。調査の結果は3月に発達心理学会で発表された。また3月には被験者保護者およびASD児の療育に関心を持つ教員、研究者に向けた報告会を開催し、社会的なフィードバックをすることができた。 ①ASD児・定型発達児による感情プロソディの理解 ポジティブ・ネガティブな感情を表す形容詞と感情とは無関係の名詞をポジティブ・ネガティブな音声で伝えた場合の話者の感情理解を検証した。ASD児の場合は、プロソディと言語情報が矛盾しているとき、言語情報の意味を優先的に処理することが明らかになった。 ②アイトラッカーを用いた感情プロソディに基づく定位反応の検証 音声に基づく定位反応の生起を、プロソディを刺激とした状況下で検証した。眼球運動追跡装置を備えたモニタに複数の画像(顔、モノなど)を呈示し、それに先行して呈示される、特定の感情値を伴った音声による聴覚刺激に基づき、対象画像を特定するまでの反応時間を記録・分析した。ASD児はプロソディのオンライン処理に困難はあるものの、オフラインの判断については定型発達児と同レベルの理解を示す場合があることがわかった。 ③ASD児・定型発達児によるプロソディを伴うアイロニーの理解 定型発達児は8歳ごろにアイロニーの理解が始まるが、文字刺激のみで伝達された場合よりも、アイロニーに特有のプロソディが伴っている場合にその理解が促進されることがわかっている。ASD児の場合、アイロニーの理解は健常児に比べて困難であることが予測されるが、プロソディが手がかりとして加わる場合に何らかの促進効果が生じるのかどうかを検証した。その結果ASD児、定型発達児ともに話者意図の理解がプロソディによって促進されることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、対人コミュニケーションに困難をともなう自閉症スペクトラム障害(Autistic Spectrum Disorders: 以下 ASD)の幼児・児童を対象に、これまで視覚認知に比べて研究が極端に少なかった聴覚認知の特異性に焦点を当てつつ、ASD児の会話スキルの向上につながる基礎研究を行うことである。 これまでの研究調査の実績により、自閉症児のプロソディ理解の特徴について新たなデータが揃いつつある。国内外での学会発表や報告会によってそれを社会的にフィードバックする機会も重ねてきている。 現在論文出版に向けて準備を進めている。今後はそれらが出版されることを目指して、必要な追加データの収集、解析、執筆をすることが必要である。
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今後の研究の推進方策 |
今後もこれまでの研究調査で得られた新たな学術上の結果を国内外の学会で発表することは継続したい。さらに、社会的なフィードバックの機会を増やし、実際に療育・教育の現場で基礎研究の結果がどのように生かせるかを検討していきたい。 特に力を入れたいのは、これまでのいくつかの研究調査の結果を確実に論文として出版することである。そのために研究者間の連携を密にしていくことが肝要である。
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