本研究課題では、教師の「授業力」を解明するための一つの試みとして、授業を展開する際に要求される教師の「評価的思考」に着目し、とりわけ、教師による授業中の即興的な教育的介入である「教師の出」を支える心理プロセスやメカニズムについて、理論的、実証的な解明を試みてきた。今年度は一連の研究の最終年度として、これまでに得られた知見を下記のように統合的に総括するととともに、教師の「授業力」の向上を促すための実践的な提言を具体化した。 当該研究課題の遂行プロセスにおいては、教師を対象とした質問紙調査とインタビュー調査、授業協議会における談話のカテゴリ分析、授業研究推進校の事例研究を実施してきたが、文献研究から得られた知見とそれらの結果を統合的に解釈したところ、的確な「教師の出」の背後にある教師側の要因として、1.子どもと教材に関する深い理解、2.子どもの学習プロセスに対する興味、3.「子どもとともに創る」という授業観、4.授業中の細かな出来事に対する鋭敏な気づきの4つが見出され、仮説の通り、授業力の背後にある専門性として、特有の知識、興味、信念、着眼の存在が確認された。 また、当該研究課題では、教師を「学び手」としてとらえ、より適切な研修システムの開発を目指したが、「教師の出」に関する上記の要因を教師の適性として身につけるための新たな研修システムとして「当事者主体型授業研究」が有効であることを見出した。すなわち、授業者である教師一人ひとりのオリジナリティを尊重しつつ、授業中の子どもたちの学習プロセス(具体的な学習の姿)に着眼し、その具体的な情報を協議の中心に据える「当事者主体型授業研究」が、教師の授業研究に対する意欲を高め、専門的学習を促進し、ひいては「授業力」の向上に寄与する可能性がデータによって明らかになった。
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