本研究では、統合失調症を中心とした前頭前野機能障害の病態解明および前頭前野機能の役割とその神経基盤を明らかにすることを目標として、第1に、脳磁気共鳴画像(MRI)と神経心理検査双方を同一被験者に行い、前頭前野の下位領野の体積と記憶遂行成績との関連を検討する。第2に、脳機能画像によって、記憶の組織化課題による前頭前野の脳活性部位を明らかにする。本年度は、記憶方略(記憶の組織化)の前頭前野脳形態学的特徴(脳体積)との関連の検討として、三次元MRIスキャンと単語記憶学習検査を行い、統合失調症患者35名、統合失調型障害患者25名および健常者19名のデータを収集した。得られた脳画像から、上前頭回、中前頭回、下前頭回、腹内側前頭皮質、眼窩前頭回、直回および全脳の体積測定を関心領域法によって行い、これらの体積と記憶の組織化指標との関連を検討した。結果、健常者では左下前頭回の灰白質体積と意味的クラスタリングとが正に相関していた。統合失調症患者では左眼窩前頭回の灰白質体積と意味的クラスタリングとが正に相関していた。統合失調型障害患者では、左下前頭回の白質体積と意味的クラスタリングとが負に相関し、系列的クラスタリングとが正に相関していた。このことから、健常者の意味組織化が左下前頭回の脳体積と関連しているが、患者では異なることが明らかになった。第2に、記憶組織化課題実施中の脳活動の計測(脳機能画像研究)として、健常者10名に全頭型光トポグラフィを用いて、記憶学習課題施行中の酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンの変化量の測定を行なった。結果、左下前頭部周辺の酸素化ヘモグロビンの変化量と記憶組織化指標との関連が認められ、単語を意味的に処理し、効率的に記憶するためにこの領域が重要な役割を果たしていることが示唆された。さらに、次年度は脳機能画像による精錬した検討に着手する予定である。
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