本研究では、統合失調症を中心とした前頭前野機能障害の病態解明および前頭前野機能の役割とその神経基盤を明らかにすることを目標として、第1に、脳磁気共鳴画像(MRI)と神経心理検査双方を同一被験者に行い、前頭前野の下位領野の体積と遂行成績との関連を検討する。第2に、脳機能画像によって、前頭葉課題による前頭前野の脳活性部位を明らかにする。第3に局在病変のある前頭葉損傷患者、統合失調症および健常者に神経心理学的検査バッテリーを施行し、比較検討する。本年度は、近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)を用いて、健常者について神経心理課題施行中の酸素化ヘモグロビン(oxyHb)と脱酸素化ヘモグロビン(deoxyHb)の変化量の測定を行なった。ひとつは系列動作課題(Fist Edge Palm task)を用いて実施したところ、前頭前野のoxyHb濃度がコントロール課題時よりも増加したことから、前頭前野の機能は系列動作課題遂行に強く関与していることが示唆された。ふたつ目に、メタ記憶と記憶方略の関連を検討し、記憶課題施行中のoxyHb濃度の変化量を調べた。その結果、メタ記憶は効果的な記憶方略を選択する過程に関与し、その脳内機構の特徴として、両側外側前頭前野の機能がメタ認知的コントロールに、両側内側前頭前野の機能がメタ認知的モニタリングに関与している可能性が示唆された。さらに、機能的脳磁気共鳴画像(fMRI)を用いて、心の理論課題施行中の健常者の脳活動の検討を試みた。その結果、内側前頭回、右中前頭回の賦活が認められた。第3に関して、前頭葉損傷患者および統合失調症患者に適用可能な前頭葉機能関連神経心理検査バッテリーを精錬させるために、まず健常者への実施を試み、また患者での検討を開始した。次年度はさらに多くの対象者での検討を進める予定である。
|