研究概要 |
平成22年度は,(1)社会不安障害の潜在的・顕在的記憶構造とその変容過程の検討,(2)社会不安者の視線行動の対処的意味に関する検討,の2つを行った。得られた知見は以下の通りである。 (1)社会不安障害の潜在的・顕在的記憶構造とその変容過程の検討:社会不安高者に対して,エクスポージャー法と認知療法の介入実験を行った結果,以下の点が示された。(1)介入によって顕在的連合は変容したが潜在的連合は変容せず,顕在的連合に遅れて潜在的連合の変容が生じる可能性が示された。このことは,社会不安障害の治療介入終結後の再発は,潜在的連合の未修正によるものであることを示唆する。(2)介入終了3ヵ月後の不安症状(生理的反応)が介入終了時の潜在的連合の強度と関連する傾向が認められた。(3)エクスポージャー法は,生理的反応の馴化を促進する一方,認知療法プログラムは、社会不安障害特有である「他者からの否定的評価に対する認知の歪み」の修正を促すことが示された。 (2)社会不安者の視線行動の対処的意味に関する検討:スピーチ中のアイコンタクトを調べた結果,以下のことがわかった。(1)社会不安高者は,スピーチ中に相手とアイコンタクトする時間が長く,自己注目を喚起する条件で顕著であった。これは,自分の不安を相手に伝えないようにする対処的意味があることを示唆するものである。(2)スピーチをしているときよりも,スピーチを聴いているときに,相手とのアイコンタクトが多いこと,不安や内的情報への注意,注意の不安定性が高まることがわかった。これらの結果から,スピーチをすることで不安が高まり,注意が拡散的になっていることが示唆される。
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